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「復刻」というクリエイション HAYのある暮らし #10

「私たちの未来につながるデザインであれば、過去に目を向けることも怠りません」。HAYを創業したロルフ&メッテ・ヘイは、以前のインタビューでそうコメントしています。新しい才能を探り当て、見たことのないようなプロダクトを次々に発表するHAYですが、一方でその視線は過去にも向けられているのです。すぐれたアイテムであるにもかかわらず、世の中に広く流通していない家具は少なくありません。HAYはそんなデザインを掘り起こし、巧みにアップデートする独自の復刻に取り組んできました。

HAY
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最近は、HAYがヘリット・トーマス・リートフェルトの「CRATE」コレクションを甦らせたことが話題になりました。リートフェルトは1910年代から活躍したオランダのデザイナーで、先進的な芸術デザイン運動であるデ・スティルに参加し、従来の家具を抽象化したかのような先鋭的な造形を多く手がけたことで有名です。しかし彼は同時に、少ない手数で製造できる合理的な家具のデザインにいち早く取り組んだ一面がありました。1934年発表の「CRATE」コレクションは、その好例でしょう。クレートとは輸送用などに使われる木箱のことで、その廃材を使う前提ですべてが構成されています。1930年代は大恐慌が世の中を覆い尽くした時代。リートフェルトは、高いコストを費やすことなく快適な家具を広めるために、このコレクションを発想したのです。

HAYの「CRATE」コレクションは、リートフェルトのアプローチを受け継いだ汎用性の高いシリーズ。ラウンジチェア、ダイニングチェア、ローテーブル、サイドテーブルを取り揃えています。FSC認証を取得した無垢のパイン材を使い、ネジで組み立てるだけのノックダウン構造を採用しました。素朴で無駄のない本来のデザインの持ち味はそのままに、コーディネートしやすいHAYらしいカラーリングも加えています。この写真は、リートフェルトの建築の代表作、オランダ・ユトレヒトにあるシュレーダー邸で撮影されたもの。すみずみまで幾何学的に構成された空間との調和は、新しい「CRATE」コレクションにリートフェルトの哲学が貫かれていることを伝えます。

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オランダのフリソ・クラマーが1953年にデザインした「REVOLT」チェアも、HAYの復刻によって手に入れやすくなった歴史的なマスターピースです。フレームにスチールパイプを使った家具は、1920年代から多くのデザイナーが取り組み、無数のバリエーションが生まれていました。それに対して「REVOLT」チェアは、鋼板のパーツをフレームに用いたのが特徴です。どの部分も同じ太さのスチールパイプに比べて、力がかかる位置とそうでない位置で太さが変えられる鋼板のフレームは、使用する原材料の量を減らし、コストを下げることが意図されました。また背もたれとフレームの間にゴムを挟み、背もたれが動くようにして快適性を高める工夫も凝らされています。そのためダイニングはもちろんワークスペースなどでも使える、用途を選ばない椅子になっています。

「RESULT」チェアは、「REVOLT」チェアをデザインしたフリソ・クラマーと、ヘリット・トーマス・リートフェルトを父にもつデザイナーのヴィム・リートフェルトの共作です。全体の雰囲気や鋼板でできたフレームは、1953年発表の「REVOLT」チェアを踏襲していますが、逆V字型の脚部のシャープなシルエットがひときわ目を引きます。何脚もの「RESULT」チェアが並ぶと、その美しさはいっそう印象的です。また同様の脚部をもつテーブルやベンチのコレクションに「PYRAMID」があります。特にコンパクトな室内では、家具の脚部に統一感があると空間が引き締まります。同じカラーリングを選ぶとその効果はいっそう明らかです。

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HAYの「REY」コレクションは、スイス出身のブルーノ・レイが1971年に手がけた家具を復刻したものです。特にコレクションの中心である「REY」チェアは、真っ直ぐに伸びた4本の脚と、柔らかな丸みを帯びた背もたれ、そして円形の座面がまさしくアイコニック。モダンさと懐かしさを兼ねそなえた存在感が魅力になっています。さらに、この椅子は構造的にも大きな特徴があります。それは、主な素材に木を使いながら、脚と座面のジョイントに強度に優れたアルミニウム製のパーツを取り入れたこと。このパーツの採用によって、視覚的なノイズになる補強材や目に見えるネジなどを不要にしたのです。

「REY」チェアは、スイスの家具メーカー「Dietiker」が1970年代から製造し、スイス国内で広く販売されてきました。近年は、古い「REY」チェアがヴィンテージ家具として売買されることも増えていたようです。HAYはDietikerとコラボレーションして、サイズの見直しを行い、色のバリエーションを追加。HAYのラインアップに加わったことで、「REY」チェアの魅力は世界中であらためて注目を集めています。

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「J-SERIES」は、FDB(デンマーク生活協同組合連合会)がつくっていた家具を、HAYが復刻したコレクションです。FDBは19世紀に創設され、1942年に家具部門がスタート。デンマークに暮らす大多数の人々が日常的に使うのにちょうどいい、丈夫で廉価な家具を普及させていきました。またボーエ・モーエンセンやポール・M・ヴォルタといったデザイナーが参加していて、デザインのクオリティにも妥協はありません。デンマークの木工家具というと、熟練した職人が手づくりする名作がいくつもあります。一方で「J-SERIES」は、通底する美意識をもちながらも、より手軽に幅広い空間と合わせることができます。デザインされた当時の精神が、現在のHAYへと受け継がれているようです。

家具のデザインとは本来、消費されてしまうべきではありません。しかし発表されてから年月が経つ中で、埋もれていくケースが多いのも確かです。その揺るぎない価値を見出し、ふたたび広めることは、新しいデザインを生み出すのと同様に大きな意義をもっています。それは過去の創造を未来へ継承しながら、暮らしの風景の選択肢を増やしてくれるからです。復刻もまた、HAYならではのクリエイションのひとつなのです。

土田貴宏 ライター/デザインジャーナリスト。
2001年からフリーランスで活動。プロダクトやインテリアはじめさまざまな領域のデザインをテーマとし、
国内外での取材やリサーチを通して雑誌やウェブサイトで原稿を執筆。東京藝術大学などで非常勤講師を務める。
近著「デザインの現在 コンテンポラリーデザイン・インタビューズ」(PRINT & BUILD)。