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ルイ・ペレイラが「BARRO」に込めたもの HAYのある暮らし #13

HAYから新しいテーブルウェア「BARRO」(バロ)が発売されました。ポルトガル出身で、HAYのデザイン&ビジュアルディレクションマネージャーを務めるルイ・ペレイラによるデザインです。誰よりもHAYというブランドを知り尽くす彼が、自身の故郷のクラフトや食文化を参照して完成させたBARROは、素朴さと現代性が絶妙にミックスしています。この新作のプレゼンテーションのため来日した彼に、BARROの背景や、デザインに対する姿勢について聞きました。

HAY
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ルイ・ペレイラは、ポルトガル生まれのデザイナーです。まず自国のポルトで、次にイタリア・ミラノでデザインを学び、2012年からはイタリア屈指のデザイナーであるパトリシア・ウルキオラの事務所で約3年半にわたり経験を積みました。
「彼女はボルケーノ(火山)と呼ばれるほどエネルギッシュで、強烈な個性をもつデザイナー。自分の先生だと思っているし、本当にたくさんの刺激を受けました。色やボリュームについてのセンスから、デザイン業界での立ち振る舞いまで……。また当時、この事務所で同時期に働いていたのが福定良佑です。彼と一緒にパトリシアのスタイルを身につけながらも、それとは異なる自分たちのスタイルについて話していました。こうした関係が、その後のコラボレーションにつながっていきました」
ペレイラは2014年にデンマークのコペンハーゲンに移住し、HAYで働き始めます。福定良佑と共同でデザインしたアロマディフューザー「CHIM CHIM」は、2020年にHAYで製品化されました。

彼がミラノを離れることを決めたのは、ガールフレンドの意見がきっかけだったそうです。そしてHAYの仕事をするため、行き先をコペンハーゲンにしました。それまではデンマークを訪れたことさえなかったといいます。
「HAYは以前から知っていましたが、ロナン&エルワン・ブルレックの家具コレクション『CPH』を見て、このブランドで絶対に仕事したいと思ったんです。そして単にデザイナーとして製品を出すだけでなく、HAYの活動全体に携わりたいと考えました。最初は製品開発のチームに入り、5年ほど前から現在のデザイン&ビジュアルディレクションマネージャーに就いています。外部のデザイナーとやりとりし、製造工程や流通も見て、さらにユーザーにイメージを伝えていく、とても幅広い仕事です。ハーマンミラーとのコラボレーションや、『レイチェア』の復刻など、特別なプロジェクトにもかかわっています」

HAY
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そんなポジションで働くペレイラにとっても、自身で手がけたBARROは思い入れのあるアイテム。自分で料理をする彼は、一般的なオーブン用のオーバルディッシュに、手でつかむところが両端の2箇所しかないのが不満だったそうです。そこで、どの方向からも手でもちやすいように、リムの周囲に指をかけられる形状のオーバルディッシュをデザインしました。
「その試作品をHAYのディレクターのメッテ・ヘイが見て、同じコンセプトをテーブルウェアのフルコレクションに広げることを提案されました。そこでプレートやボウル、さらにマグやキャンドルホルダーなど、一連のシリーズをデザインしていったのです。すべてのアイテムは、手にもった時の指先の感覚を意識しています」

BARROの大きな特徴は、ポルトガルの陶器に昔から用いられてきた赤土を原材料に使うことでした。BARROとは、この赤い陶土を指すポルトガル語です。
「私自身、おばあちゃんがこういう食器をよく使っていたのを覚えています。ポルトガルでは赤土の器はとても大衆的で、市場などで大量に売っている手に入りやすいものです。HAYのデモクラティックな姿勢と相性がいいと思いました」
最もオーソドックスなポルトガルの同種の器は、赤土の色をそのまま生かし、白い線で模様を描いた厚手のもの。ただし陶器としては柔らかく、破損しやすいという欠点があります。BARROは同じ素材を使いながらも焼成温度を高くするなど、日用品にふさわしい耐久性や使いやすさを実現しました。もちろんオーブン、電子レンジ、食器洗い機の使用も問題ありません。

HAY
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ただし製品化までの道のりが、すべて順調だったわけではありません。
「ポルトガルで赤土の器をつくっているのはほとんどが小さな工房で、HAYが流通させるほどの数を量産するのが難しい。それも、成形や施釉などすべてにおいて品質を保ち、価格も抑えなければなりません。機械を使う工程もありますが、職人の経験も必要です」
以前からヨーロッパではものづくりを行う工場が減り、国外に製造拠点を移すケースが増えています。もしもポルトガルでの製造にこだわらなければ、課題はクリアしやすかったに違いありません。しかしペレイラは、その点を譲る気はなかったといいます。
「ずっとポルトガルでつくられてきたものを、こうしてつくり続けるのはとても大切なこと。また、HAYのコレクションにきちんとクラフトマンシップが生かされたものがあるのも重要です」

BARROは、赤土に透明の釉薬を施したナチュラルタイプのほか、グリーン、オフホワイト、ダークブルー、ライトブルー、ピンクなどのバリエーションがあります。モデルによって色の種類は異なりますが、それぞれに愛らしく、食卓を自然に彩るものばかりです。
「1点1点はピュアな印象で、いくつか組み合わせるとコントラストが美しい、食べ物を引き立てるペールカラーを選びました。ブルーはシーフードに合うように、グリーンは野菜や果物に合うようにと、食材との相性も意識しています」
ウェブサイトなどで用いるイメージビジュアルもペレイラ自身が手がけています。地中海風のフレッシュなシーフード、ヨーグルト、ベリーなどを使った料理をBARROに合わせ、ヴィンテージのアイテムもプラスして撮影を行いました。

HAY
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現在、仕事の時間の99%はHAYに費やしていると話すペレイラ。その残りの1%では、自主的なリサーチをもとにした作品づくりを行なっています。今年4月のミラノデザインウィークでは、福定良佑との共作「KAWARA OBJECTS」を発表しました。これは屋根に使われてきた日本の京瓦を再解釈し、照明器具やスツールとしたコレクションです。
「リサーチベースの実験はHAYとは対照的ですが、その中で学んだことが商業的な仕事に生かされることもあります」。そうペレイラが話すように、未知のテーマに取り組む好奇心と、担った役目を着実に遂行する積極性が、彼の原動力になっているようです。BARROもまた、そんな彼の創造性が妥協なく発揮された新しいスタンダードです。

土田貴宏 ライター/デザインジャーナリスト。
2001年からフリーランスで活動。プロダクトやインテリアはじめさまざまな領域のデザインをテーマとし、
国内外での取材やリサーチを通して雑誌やウェブサイトで原稿を執筆。東京藝術大学などで非常勤講師を務める。
近著「デザインの現在 コンテンポラリーデザイン・インタビューズ」(PRINT & BUILD)。