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ステファン・ショルテン「FACET」のHAYらしさ HAYのある暮らし #14

必要な機能を満たしながら、身の回りにあるだけでうれしい気分にしてくれるカラーリングと佇まい。そんなHAYのアイテムに共通するテイストを、デザイナーのステファン・ショルテンにも感じることができます。彼がHAYとの仕事をスタートしたのはもう15年ほど前のことで、初期に手がけた色鮮やかなパターンのテキスタイル製品はすぐにインテリアシーンの大きな話題に。以来、両者のコラボレーションは途切れることなく続き、さまざまな人気アイテムを生み出しました。そんなショルテンに、今まで彼が培ってきたデザイン手法や2025年春に発売される「FACET」について尋ねます。

HAY
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ステファン・ショルテンは1972年オランダ出身のデザイナーです。彼が自国のデザインアカデミー・アイントホーフェンで学んでいた1990年代は、見栄えやクオリティ以上にコンセプトを重視するデザインがオランダにおいて大きなムーブメントになっていました。その中心にあったのがドローグというレーベル。主宰者のひとりだったデザイナーのハイス・バッカーは同校の教師であり、ショルテンも当時の状況に間近に触れていたと言います。
「私と同世代のオランダのデザイン学生にとって、デザイナーとして働くならドローグに参加するしか選択肢がないようなものでした。ドローグが追求したのは首尾一貫してコンセプトであり、革新性、実験性、ミニマルさ、ユーモアを重視しました。共感する部分もあったけれど、インダストリアルデザインのバックグラウンドがあった私は、デザインは最終的に世の中とどう繋げていくかが大事だと考えていました」

2000年代に入ってイタリアのミラノデザインウィークに出展しはじめた彼は、やがてチャンスを掴みます。2010年頃にHAY創業者のロルフ・ヘイから突然の電話があり、コラボレーションを提案されたのです。当時のショルテンは、ショルテン&バーイングスというデザインデュオとして徐々に注目を集めつつありました。
「ロルフさんは奥さんのメッテさんと休暇を過ごしていて、その間ずっとメッテさんから私たちの話を聞かされていたそうです。当時のHAYはまだコペンハーゲン市内に2、3軒の店舗があるだけで規模も小さかったのですが、興味があるなら僕らの冒険に参加しようと誘われました。あれはカラフルなブランケットを自分たちで発表していた頃で、インテリアに鮮やかな色を取り入れるブランドはまだなかったのです」
やがてHAYから発表されたショルテン&バーイングスのアイテムは、幾何学的なパターンと多様な色を組み合わせたもの。そのスタイルが現在まで続くHAYのDNAの一部になったに違いないとショルテンは考えています。

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2025年初めに国内発売されるキャビネット「FACET」は、そんなスタイルの延長線上に生まれた新しいシリーズです。円筒に縦方向のカッティングを施したような多面体のフォルムが、時代感にフィットした5種類の色彩と一体になっています。
「このカラーリングは、5年ごとに更新している私のスタジオのカラーパレットに基づいています。スタジオカラーは8~10色ほどあり、その中からHAYにふさわしいものを選びました。アンスラサイト、ミスティグレー、エッグシェルの3色はどんなインテリアにも合わせやすく、スピナッチグリーンとミスティブルーはいっそうHAYらしいシグニチャーカラーです」
この5色は、素材に用いたリサイクルABSの質感にもマッチしています。ABSは耐久性の高い樹脂ですが、リサイクルABSを扱う業者を探して製品化を実現するには相当の時間を要したそうです。
「現代のインダストリアルデザインは社会課題の解決に結びついていなければなりません。素材に対する配慮を欠かすことはできないのです」

ショルテンが「FACET」を発想したのは、オランダ・アムステルダムで進行中のあるホテルのプロジェクトのため、収納について考えたのがきっかけでした。
「限られた広さの客室を快適で実用的なものにするために、収納は大きな課題です。このキャビネットはソファやテーブルといった家具のそばに置くことも、バスルームなどで使うこともできます。コンパクトで、積み重ねができ、なおかつインテリアのディテールとして効果的なデザインにしました。多角形の本体に対して、ドアもそのまま多角形だと動かせないので、ヒンジを使わずに開閉できるようにした点は革新的です。工夫した点がすべて目に見えるわけではありませんが、とてもよくできているんです」
日本に限らず大都市においては、居住空間の余裕のなさは万国共通のテーマ。つまりコンパクトな住まいにちょうどいい実用性、汎用性、そして美しさを兼ねそなえたデザインには世界的なニーズがあるのです。自分のデスクのそばにもぴったりだとショルテンは言います。

HAY
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ショルテンは、自身が手がけるあらゆるデザインをアトリエ・メソッドと呼ぶ方法によって進めています。
「アトリエ・メソッドは、デザインプロセスの初期から自分たちの手で何かをつくることから始まります。紙などの簡単な素材を使ったモデルによって、サイズ感やフォルムなどいろいろとイマジネーションを膨らませるのです。これはアーティストのように自由に、制約を設けずに発想するために有効です。その中で新しいソリューションを見出したら、今度はデザイナーとして社会、ユーザー、クライアントが求めているものを意識しながら作業を続けていきます」
一連のプロセスは、デザインアカデミー・アイントホーフェンで過ごした学生時代、独創的なコンセプト重視のデザインと機能的なインダストリアルデザインという2つの流れの間で、ステファンが自身の作風を探究した様子を想像させます。彼は同校で2006年から6年間にわたり教鞭を執ったことで、その方法論をいっそう確立したそうです。

HAYのロルフ&メッテ夫妻とは年に2回ほどミーティングを行い、ブランドのあり方を含めてさまざまに意見を交換するというショルテン。2019年にデザインデュオを解消し、個人のスタジオをスタートさせたのは、仕事の上で必要なステップだったようです。
「約20年間にわたる共同作業は楽しいものでしたが、新しい方向性を探るべき時期が来たということ。アーティストやミュージシャンにもそんなタイミングがあるのではないでしょうか。ふたりでディスカッションしてデザインすることがなくなった以外、デザインのプロセスに大きな違いはありませんが、一方で社会や業界は変化し続けていて、自分自身も変わっていく必要を感じます。より本質的なもの、本当に必要とされるものに集中するようになったと思います」
ロルフ・ヘイがショルテンを誘った「冒険」は驚くほどの速さでスケールを拡大し、世界へと広がっていきました。変化すべきものとそうでないものを見きわめるショルテンの姿勢は、そんなHAYのスタイルととても相性がいいようです。

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土田貴宏 ライター/デザインジャーナリスト。
2001年からフリーランスで活動。プロダクトやインテリアはじめさまざまな領域のデザインをテーマとし、
国内外での取材やリサーチを通して雑誌やウェブサイトで原稿を執筆。東京藝術大学などで非常勤講師を務める。
デザイン誌「Ilmm」(FLOOAT刊)エディター。