HAYの家具とワークスペース HAYのある暮らし #1

東京都港区、新橋駅のすぐそばに堀ビルという古めかしい建物があります。錠前や建築金物を扱う堀商店が社屋として1932年に建てたもので、堀商店が移転する数年前まで実際にオフィスなどとして使用されてきました。設計は公保敏雄と小林正紹が共同で行っており、小林は国会議事堂や明治神宮外苑の絵画館などの設計に携わった人物。アールデコを思わせる幾何学的なラインがモダンに映える一方、イギリスから取り寄せた外壁のスクラッチタイルや装飾的なレリーフが瀟洒な印象を深めています。この堀ビルが、2021年春、シェアオフィス「GOOD OFFICE 新橋」へとリノベーションされました。建物本来の趣を大切にした空間では、HAYの家具が数多く使われています。

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今回のリノベーションでは、建物の構造や歴史的な意匠を残し、その価値を継承することが当初から意図されました。もともとショールームとして使われていた1階は、人通りの多い外堀通り沿いの交差点に面し、落ち着いた中にも活気を感じる空間。建物の特徴でもある水平方向にいくつも並んだ窓のそばに、HAYの「REVOLT CHAIR」と「TERRAZZO TABLE」がレイアウトしてあります。特にリボルトチェアはオランダのフリソ・クラマーが1950年代にデザインしたモダンチェアの名作で、長い時を経た空間とうまく馴染んでいます。

1階の共用ラウンジ中央の大きなテーブルには、HAYの定番である「SOFT EDGE」が使用されています。木という素材ならではのあたたかさや優しさを重視するのは、GOOD OFFICEのシェアオフィスに共通するスタイル。この椅子の丸みを帯びたフォルムも、建物の造形と響き合っています。
都市の中にあって自然光に恵まれた室内は、明るくオープンなイメージともに、暮らすように気持ちよく過ごせる配慮がなされているのです。こうした空間づくりは、ダイニングテーブルに向かって仕事をすることも増えた現在の住空間においても参考になります。

堀ビルの2階と3階は以前からオフィスだったフロアで、竣工当時の働き方を反映し、コンパクトな空間に分割されています。そのまま使える部分を残しながら、壁面は白を基調にグリーンなどの色彩を取り入れ、北欧のモダンインテリアを意識したワークスペースに一新されました。壁の色はフロアごとに変化し、空間の個性を引き立てています。
この空間のもうひとつの主役はHAYの「AAC」チェアでしょう。十分な大きさのプラスチックシェルが身体を心地よくホールドする、長時間座ってもストレスを感じにくい椅子です。抑えた色合いやマットな質感も、ホームかオフィスかを問わず現代の感覚にフィット。快適性の高いアーム付きのタイプと、よりシーンを選ばないアームレスタイプがあり、脚部にもキャスター仕様はじめ豊富なバリエーションが用意されています。

4階は、以前は堀商店の創業家の家族の居住スペースであり、アットホームな空気を今なお感じることができます。こちらも椅子は「AAC」チェアで、デスクにはやはりHAYの「PYRAMID DESK」が選ばれています。椅子のグレーのシェルとスマートな4本脚が、1950年代にデザインされたデスクのデザインと調和し、さらに建物の趣とも合うのです。
こうした組み合わせをホームオフィスに応用するとしたら、植物を取り入れたコーナーをつくったり、壁面にアートを配したりすると、いっそうパーソナルな雰囲気が高まります。この空間では、デスクライトの存在感もコーディネートのポイントです。

4階が住居だった頃の雰囲気を色濃く残すラウンジスペースでは、「SOFT EDGE」のラウンジモデルと、3本脚の「BELLA COFFEE TABLE」がコーディネートされました。低いポジションでゆったり座ることができますが、ソファなどに比べてかっちりしたイメージもあり、打ち合わせにも適しています。カラーリングに黒を選ぶことで、椅子のフォルムのシャープさが美しく際立ちました。風合い豊かな壁の仕上げや和の設えとも、見事なコントラストを生み出しています。

屋上のテラスにある椅子とテーブルは、ロナン&エルワン・ブルレックがデザインしたHAYの「PALISSADE」。アウトドア向きのシリーズで、究極的にシンプルでありながらエレガントなところに、ブルレックの創造性が発揮されています。
約90年もの歳月を経て継承され、新しく生まれ変わった堀ビルは、優れたデザインが時代を超えた価値を持つ証でしょう。HAYというブランドもまた、良質なものを長く使い続ける北欧の伝統を現代へとアップデートしています。仕事と暮らしの関係が大きく変化し、そのための空間が求められている現在。変わるべきデザインと、受け継がれるべきデザインについてのヒントを、GOOD OFFICE 新橋のリノベーションから得ることができます。

土田貴宏 ライター/デザインジャーナリスト。
2001年からフリーランスで活動。プロダクトやインテリアはじめさまざまな領域のデザインをテーマとし、
国内外での取材やリサーチを通して雑誌やウェブサイトで原稿を執筆。東京藝術大学などで非常勤講師を務める。
近著「デザインの現在 コンテンポラリーデザイン・インタビューズ」(PRINT & BUILD)。