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メッテ・ヘイが語る「HAYとわたし」 HAYのある暮らし #16

今年5月、HAYの共同創業者であるメッテ・ヘイが7年ぶりに東京を訪れました。この時期のHAY TOKYOでは「The Shape of Thought – 20 Designs from HAY」展を開催中。今までに発表してきた数々のプロダクトから、ひときわHAYらしさを感じさせるものを選りすぐったエキシビションに、彼女も感激した様子でした。アクセサリー部門のディレクターとして、家具部門をディレクションする夫のロルフとともにブランドを成長させてきたメッテ。いま、どんな姿勢で仕事に取り組んでいるか、そしてHAYの現在をどう考えているのか。じっくりと話を聞きました。

HAY
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「The Shape of Thought – 20 Designs from HAY」展では、HAYの家具、照明、テーブルウェア、小物など多種多様なプロダクトが選ばれていました。デザイナーの世代や出身地はさまざまで、復刻のアイテムもあります。そんな多様さにもかかわらず、共通するHAYらしさがあるのは不思議なポイント。その秘訣についてメッテに尋ねてみました。
「HAYのスタイルが形づくられたのは、創業してから5年ほど経った頃。私がアクセサリーを、ロルフが家具を担当して、互いに相談しなくても製品を並べて置くと調和するようになりました。HAYのDNAを共有できたんでしょうね。ただし何がHAYらしいのかを言葉で説明することはできません。一目見るとすぐにわかるのですが、それは直感としか言えないのです」

HAYらしさが確立されてから20年余りが経った現在から見て、メッテのスタイルは変化してきたのでしょうか?
「私たちは常に新しいものを模索しています。よりサステナブルな方法で製造し、未知のデザイナーはもちろんアーティストやファッションデザイナーといった異業種ともコラボレーションします。何事にも興味をもち、進化し続けなければ、退屈な存在になってしまうでしょう。そういう意味では20年前とはまったく違う会社になりました。しかしブランドのエッセンスは変わりません。それはたとえば、最高のデザインを手頃な価格で提供したいという思想です」

HAY
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メッテと同時期に来日したベルギーのデザインデュオ、ミュラー・ヴァン・セヴェレンとのコラボレーションも、やはり新しいデザイナーとの仕事を進めようとするなかで実現しました。その経緯をメッテはこのように語ります。
「私とロルフはミュラー・ヴァン・セヴェレンの活動にずっと注目していて、ふたりの作風が大好きでした。でも彼らは自主的に作品を発表していたので、他のブランドとの協業にはあまり興味がないと思い込んでいたのです。ある時、彼らのほうから連絡があり、一緒にコーヒーを飲みながら話してみると、すぐにプロジェクトが始まりました。私たちには素材、色彩、形などについてたくさんの共通点があり、本当に気が合うんです。コラボレーションはこれからまだまだ続くでしょう」

HAYとミュラー・ヴァン・セヴェレンとの共通点だとメッテが話す色という要素は、彼らの一連のコレクションを特徴づけるものです。
「ふたりと色について話し合うプロセスはとても楽しい。ただし私は、彼らの色彩感覚がデザインに率直に反映されることを大切にしていて、彼ららしくないカラーリングを求めたりはしません。他のデザイナーとの仕事では、色のバリエーションは商品開発の最後に決めることがありますが、ミュラー・ヴァン・セヴェレンの場合はしばしば色の選択とともにデザインがスタートします」
このコラボレーションが注目を集めたもうひとつのポイントは、主に少量生産のアイテムを発表してきたミュラー・ヴァン・セヴェレンが、多くの人々にとって入手しやすいものに初めて取り組んだことでした。こうした「デザインの民主化」は、HAYが成功を収めてきた大きな理由です。

HAY
HAY

デザインの民主化は、HAYにとって創業以来のポリシーにほかなりません。
「HAYを創業する前は、単に低価格を追求するブランドと、イタリアを中心とするハイエンドなブランドとの間に大きなギャップがありました。私たちの世代が求める、本当にいいデザイナーによってつくられた良質な製品が、その価格帯になかったのです。それならHAYは、すぐれたデザインを大量生産して、より手頃な価格で流通させようと考えました」
世の中にはHAYより低価格のブランドももちろんあります。しかし価格の追求を第一の目的にするとデザインに妥協せざるをえません。それでは「デザインの民主化」とは言えないでしょう。あくまでデザインを重視するのがメッテであり、HAYなのです。
「今もHAYのデザインチームは小さいままで、それを維持していきたい。会社が成長することで、ありふれた10色の製品しかつくれなくなるのが嫌なのです。自由に仕事をすることは、デザインのクオリティを保つ秘訣でもあります」

メッテの自由さが何より生かされるのは、起用するデザイナーの選定です。HAYが取り上げることによって新しいステージに立ったデザイナーは数え切れません。どんな基準やプロセスによって、HAYは次のコラボレーション相手を決めるのでしょうか?
「それはとても流動的で、決まった方法はありません。時には友人を介したり、時には偶然の出会いだったり、時にはすでに交流のあるデザイナーのパートナーだったり。今晩のパーティで何か新しい出会いがあるかもしれません。ひとつ言えるのは、私がラッキーだということ。ある発想が思い浮かぶと、そのために最適な人と出会うことがよくあります。『いまコペンハーゲンにいるんだけど、コーヒーを飲む時間はある?』というメッセージから始まったプロジェクトばかりなんです」

HAY
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インタビューの終盤、このコラムのタイトルでもある「HAYのある暮らし」とはどんなものなのかを尋ねました。メッテ自身は、HAYのデザインが日常生活に何をもたらすイメージがあるでしょうか。それは他のブランドに比べて、どんな個性や特徴をもっているのでしょうか?
「自分で答えるのは難しいですね(笑)。とにかく私は、好きなデザイナーと何かをつくり上げるのが本当に楽しいし、その楽しさを製品を通してより多くの人々と共有できるのは何より素敵なことです。今日も日本のチームとランチをしながら開発中のアイテムを見せると、みんなが『すごい!』と反応してくれてとてもうれしかった。デザインによって幸せが広がっていく感じがします」
「他のブランドのことは気にしません。競争するのではなく、自分がやるべきことに集中し、それを誇りに思うようにしています。ロルフも私も、最高のデザイナーとコラボレーションし、新しい何かを発想し、限界を押し広げるために努力しています。もしもそんな気持ちを失ったら、別の誰かがこの仕事を引き継ぐべきでしょうね」

土田貴宏 ライター/デザインジャーナリスト。
2001年からフリーランスで活動。プロダクトやインテリアはじめさまざまな領域のデザインをテーマとし、
国内外での取材やリサーチを通して雑誌やウェブサイトで原稿を執筆。東京藝術大学などで非常勤講師を務める。
デザイン誌「Ilmm」(FLOOAT刊)エディター。