クララ・フォン・ツヴァイベルクのデザイン HAYのある暮らし #4

カラーリングやパターンの独自性は、HAYというブランドの大きな魅力。その基調をつくる数々のアイテムを手がけるのが、デザイナーのクララ・フォン・ツヴァイベルクです。彼女はスウェーデン出身のグラフィックデザイナーで、HAYではいくつものプロダクトに加え、ラッピングペーパーやカタログなどもデザインしてきました。今回、彼女は日本のHAYのために新しいパターンを発想し、特別なボックスやトートバッグなどを完成させました。ブルー、ブラウン、ピンクなどの色彩を重ねた幾何学的なグラフィックは、まさしくHAYの世界観。こうしたデザインを彼女は直感的に発想すると言います。
「色彩を選ぶ時は、いつも直感に従っています。その場その場で、どんな組み合わせが効果的か、しっくりと感じるか、ただそれだけなんです。何度も繰り返し試すこともありますが、すぐに決まることもあります」

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  • クララ・フォン・ツヴァイベルクのデザイン 02
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過去に1度だけ日本を訪れたことがあるクララは、その思い出をこう語ります。
「たった1週間の滞在でしたがとても楽しく、またすぐに行きたくなるほど大好きな国です。あらゆる意味で他のどんな場所とも違っていて、まだ気づいていない秘密がたくさんあるような気がします」
直感で色彩を操るクララにとって、日本のHAYのためのグラフィックは、日本をストレートにイメージさせるものではありません。しかし、統一感がないようで不思議な調和を感じさせる、新しいようにも懐かしいようにも見えるグラフィックには、日本の印象もひそかに反映されているのかもしれません。

クララがHAYで発表したプロダクトのロングセラーといえば「KALEIDO」というトレイ。菱形のXSと、六角形のSからXLまでのアイテムで構成され、それぞれに数種類のカラーのバリエーションがあります。重ねて使うことで機能が広がるとともに、デスクの上にスマートな幾何学図形をつくり出すアイテムです。
「ある日、仕事をしているとデスクの上に菱形の紙が置いてあり、私はその紙を折ってトレイにしてみました。さらに別の紙も同じように折っていくと、5種類のトレイのシステムができ上がったのです。それを試作品として、HAYのディレクターのメッテ・ヘイにプレゼンしたら、そのまま製品化することになりました」とクララ。ドローイングを元に紙で試作したのではなく、紙の試作を元にドローイングを描いたのだと、彼女は説明します。カラーリングも色紙を選んで決めていったそうです。

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「ELLIPSE」は、KALEIDOの発展形にあたる楕円形のトレイで、クララはその関係を「いとこ」に例えます。どちらもスチールのシートを折り曲げてつくってあり、色紙のような質感や色使いも同様です。大きさは5種類で、それぞれの楕円形は相似関係にあるだけでなく、一定の幅でサイズが異なっています。KALEIDOは大きい六角形の中に小さなトレイを規則正しくレイアウトできますが、ELLIPSEもまた自然な規則性に基づいているのです。この楕円形は、宇宙空間の惑星の軌道からもインスパイアされているのだと、クララは語っています。1枚でも、数枚重ねても、空間をソフトな印象で彩ります。

クララのデザインプロセスでユニークなのは、スケッチブックやコンピューターに向かうのではなく、最初から手先で素材を扱って発想していくところです。
「私は子どもの頃から、編み物、裁縫、カリグラフィ、木工など、手を使うことが大好きでした。私がすることは当時から変わっていないようです(笑)。仕事においても私のやり方は有機的で直感的です。大体ははっきりしたプランも立てず、主に紙、時には粘土や毛糸で遊ぶことから始まります。その過程でできたものが、次の段階へ発展していきます」
「PAPER PAPER BIN」の側面の渦巻き状のフォルムも、1枚の紙に斜めの折り目をつけて組み立てることで生まれたもの。内側と外側のカラーのコンビネーションも見事で、ゴミ箱としてだけでなく多様な使い方が可能です。

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  • クララ・フォン・ツヴァイベルクのデザイン 09

「IRIS VASE」もまた、クララが紙でつくった試作品をもとに製品化されました。いろいろな厚さの紙を使って曲面をつくるうちに、このフォルムに辿り着いたといいます。
「私は自分の脳よりも手を信頼しているのです。紙を使って試作するのは楽器の演奏に少し似ています。まず試してみて、たまたまいい音が出たら、次に進んでいくだけです」
 独特のフォルムをもつ器を製造するため、彼女が選んだ素材はポーセリンでした。陶磁器なら、厚さや質感も紙と比較的近いものができるとわかったのです。当初、クララはもっと濃いカラーリングを思い描いていましたが、すると施釉が必要になり、紙のような陶土の質感が失われてしまいます。陶土に着色したものの色合いを気に入った彼女は、それをパレット代わりに色を決めていきました。このIRIS VASEは陶磁器の名産地である日本の有田でつくられています。

クララがデザインした日本限定の新しいボックスやトートバッグは、3月18日にオープンするHAY OSAKAはじめ、同日からHAY各店で販売されます。一連の彼女のデザインがすばらしいのは、感覚的に発想したものならではの力がありながら、空間の中にあって普遍性をもつところでしょう。
「私のデザインが北欧の地域性から影響を受けているとすれば、余計なレイヤーを剥がし取り、凡庸にすることなく、できるだけクリーンでありたいという衝動でしょうか」とクララ。その作風はあくまでパーソナルですが、それでも日々を過ごしてきた場所とのつながりがある。こうしたバランス感覚もまた、HAYらしさに通じるものです。

  • クララ・フォン・ツヴァイベルクのデザイン 10

土田貴宏 ライター/デザインジャーナリスト。
2001年からフリーランスで活動。プロダクトやインテリアはじめさまざまな領域のデザインをテーマとし、
国内外での取材やリサーチを通して雑誌やウェブサイトで原稿を執筆。東京藝術大学などで非常勤講師を務める。
近著「デザインの現在 コンテンポラリーデザイン・インタビューズ」(PRINT & BUILD)。